叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン
監修・出演:西田 佳弘 先生(名古屋大学医学部附属病院 リハビリテーション科 教授)
※医師の所属・役職は動画公開時点のものです
2024年6月に日本レックリングハウゼン病学会から『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン』が出版されました。本動画では、叢状神経線維腫・悪性末梢神経鞘腫瘍の基本情報、及びガイドラインの概要について、名古屋大学の西田佳弘先生にご解説いただきました。
※下部に本動画のスライドと解説を載せています。ご参照ください。
再生バーのマークをクリックすると、各チャプターへ移動できます。
- 0:06~
- はじめに
- 0:51~
- PNの特徴
- 2:00~
- MPNSTの特徴
- 3:29~
- 診療アルゴリズム
- 4:39~
- Clinical Question一覧
- 4:55~
- Clinical Question:スクリーニングに関して
- 6:42~
- Clinical Question:手術治療に関して
- 7:20~
- Clinical Question:分子標的薬の使用に関して
- 8:53~
- 終わりに
※PCでご覧の方は、クリックでスライドと解説を拡大できます
はじめに
みなさん、こんにちは。名古屋大学の西田佳弘です。日本レックリングハウゼン病学会は、2024年6月に、『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン』を出版いたしました。
叢状神経線維腫(以下、PN)や悪性末梢神経鞘腫瘍(以下、MPNST)は神経線維腫症1型(以下、NF1)のなかでも、特に患者さんへの影響が大きいため、多くの方に正しい情報を知っていただきたいと考えています。
PNの特徴
NF1に発症する特徴的な疾患に様々な神経線維腫があり、この神経線維腫のうちの1つがPNです。
PNは、あらゆるADL/QOL障害を引き起こす可能性があります。小児の患者さんでは、成長とともにPNが大きくなる場合が多いので、障害の発生には特に注意しています。
また、深部にあり、外観からは判別できないPNも存在します。それを示すデータとして、臨床的に診断可能なPNと、Whole Body MRIでみつかるPNの割合に差があるという報告もなされています。
MPNSTの特徴
MPNSTは末梢神経から発生するまれな悪性腫瘍で、軟部肉腫の1つに分類されます。化学療法や放射線療法に対する反応が不良で、広範囲切除による手術治療が唯一の治療といわれています。しかし、十分な切除縁の確保が困難な症例も多く、5年生存率は40%程度という報告もあります。
NF1患者さんは、このMPNSTを発症しやすいことがわかっており、PNが段階的に悪性化して発症することが多いと考えられています。
そして、悪性化する前の中間型腫瘍(ANNUBP)の段階では、MPNSTよりも手術可能で治癒可能な症例が多いと考えています。
つまり、MPNSTは、他の肉腫と異なり、早期に発見できるめずらしい悪性腫瘍であり、「問題となりそうなPNをしっかりフォローアップすること」、そして「悪性化する前の中間型にいたるところで診断し、機能をできるかぎり温存し、切除すること」が非常に重要だと考えています。
診療アルゴリズム
本ガイドラインでは、診療アルゴリズムを示しました。
NF1患者さんに、PNがみつかった場合、対応方針を決めるため、症候性か否かをチェックします。
もしもMPNSTと診断した場合には、広範囲切除による手術治療が唯一治癒を目指せる治療法ではありますが、患者さんの状況にあわせて適宜治療の選択をお願いします。
Clinical Question一覧
本ガイドラインでは、重要臨床課題を整理し、それに対するClinical Questionを作成しました。本動画では、PN診療を中心に紹介いたします。
Clinical Question:スクリーニングに関して
PNのスクリーニングについては、「神経線維腫症1型患者における叢状神経線維腫のスクリーニングにWhole Body MRIを用いることを条件付きで推奨する」としましたが、悪性化リスクのある腫瘍を抽出できることなどから、症状のない患者さんの撮像を否定するものではないことに注意が必要です。
私としては、通常の診察で、内部腫瘍の有無や腫瘍の深さを判定するのは難しいと感じています。その点MRIでは確認可能であり、症状のない患者さんでもスクリーニングとして1回は実施するようにしています。当院では、鎮静が不要となる10歳ごろの実施が多く、なるべく中学生になる前に撮影しています。
実施が必要でも、Whole Body MRIができない施設では、上半身と下半身を分けて撮影することも選択肢だと考えています。なお、こちらは当施設の実践例であることをご理解いただき、先生方におかれましては、ガイドラインの記載を考慮し、実施をご判断ください。
Clinical Question:手術治療に関して
「症候性の叢状神経線維腫に手術治療を実施することを条件付きで推奨する」としています。
完全切除であれば再発率は低い一方で、部分切除・減量手術では再発・再増大の可能性があること等が、文献より確認されました。
Clinical Question:分子標的薬の使用に関して
分子標的薬は、「手術不能、症候性の叢状神経線維腫に分子標的薬を用いた治療を行うことを提案する」といたしました。MEK阻害剤を中心に情報を整理し、強いエビデンスに乏しく断定的にはいえないものの、手術不能かつ症候性のPN患者さんへのMEK阻害剤の使用は、おそらく介入優位と考えられました。
ただし、副作用やコストの問題もあり、適応を慎重に判断したうえで、患者さんと保護者の方にしっかりと説明し、同意を得ることを条件に、本邦で唯一承認されている分子標的薬であるSelumetinibの投与を弱く推奨しています。また、SelumetinibはMPNSTへの適応がないため、私としては、投与前に悪性化していないことを判断することが特に大切なポイントだと考えています。
終わりに
先生方におかれましては、本ガイドラインをご覧いただき、新しい知見があれば、ぜひ診療へご反映いただけると嬉しいです。
とはいえ、判断に迷うことやご施設によっては対応できない検査もあるかと思います。その際には、ぜひ集学的な診療が可能な施設へ紹介をご検討ください。
私は、PNとMPNSTの情報や診療方法が浸透すれば、機能障害に苦しむ患者さんが減り、命が助かる患者さんが増えると信じています。
NF1患者さんのよりよい未来のために、本動画、本ガイドラインがお役にたてば幸いです。