神経線維腫症1型(NF1)への認識を変えよう
–積極的な経過観察の重要性–
監修・出演:中田 英二 先生(岡山大学 整形外科学教室 准教授)
※医師の所属・役職は動画公開時点のものです
NF1は、重篤な症状や合併症を引き起こす可能性がある疾患です。本動画では「NF1の積極的な経過観察の重要性」をテーマに、症状の早期発見・介入のため継続診療が必要であること、及び実際の経過観察の方針について、岡山大学の中田英二先生にご解説いただきました。
※下部に本動画のスライドと解説を載せています。ご参照ください。
再生バーのマークをクリックすると、各チャプターへ移動できます。
- 0:06~
- はじめに
- 0:52~
- 症例紹介
- 2:42~
- NF1の症状の特徴
- 3:27~
- 岡山大学病院での対応
- 4:35~
- 患者さん・ご家族に伝えていること
- 6:11~
- 新たな介入選択肢であるコセルゴ®
- 7:38~
- 終わりに
※PCでご覧の方は、クリックでスライドと解説を拡大できます
はじめに
皆さん、こんにちは。岡山大学の中田英二です。
岡山大学病院では「遺伝性骨・軟部腫瘍外来」を開設しており、通常の診療に加え、疾患情報の提供や遺伝カウンセリングなどを通して、患者さんとそのご家族の健康管理を行っています。
本外来の対象患者さんは、病気の特性上、継続的な介入が重要です。本動画では、外来患者さんのなかでも人数が多く、今まさに診療に変化が求められている神経線維腫症1型(NF1)を取り上げ、特徴や積極的な経過観察の必要性について、ご説明していきたいと思います。
症例紹介
私が経験したNF1患者さんを3例ご紹介します。
1例目は、眼窩の叢状神経線維腫を認めた患者さんです。叢状神経線維腫は良性腫瘍ですが、安心はできません。この方は、発生部位が眼窩ということもあり、失明に至り、眼球摘出を行いました。
2例目は、乳がんを発症した患者さんです。乳房のしこりに気がついたときにはすでに転移していたため、根治は目指せず、化学療法などで生存期間を延ばすしかありませんでした。
3例目は、上腕に悪性腫瘍が発生した患者さんです。当院に来られるまでにNF1と診断されていたものの、治療法もないからと積極的に介入されていませんでした。本人も腫瘍を放置していたため、進行してからの来院となり、腕の切断を余儀なくされました。
このような症例からもわかるように、NF1は重篤な症状や合併症を引き起こす可能性がある疾患です。
特にNF1の原因とされている遺伝子のバリアントにより、腫瘍増殖が抑制されにくくなるため、一般の方に比べ腫瘍の発生に注意が必要とされています。
そのためNF1は、診断時から継続して経過観察を行い、腫瘍の早期発見、早期介入をしていくべき疾患といえます。
NF1の症状の特徴
NF1は症状の出方も特徴的です。
年齢毎にあらわれる症状が違い、かつ、患者さんにより出現する症状の種類や重症度に差があります。さらに家族内でも症状は異なるため、一時点で症状を総合的に評価することができません。
そのため、診断時だけでなく、年代別にさまざまな診察や検査が不可欠で、継続した経過観察が必要な理由の1つとなっています。
岡山大学病院での対応
岡山大学病院では、介入すべき症状がなくても、1年に1回程度は診察に来てもらい、年齢や性別に応じた対応を行っています。
小児では、眼に関連する症状を警戒し眼底検査を行い、そのほかの症状に対しては診察時に皮膚や神経学的所見をはじめ、さまざまな項目をチェックするようにしています。
成人であれば、血管系の疾患や褐色細胞腫のリスクなどから血圧測定は欠かせません。
また、腫瘍サーベイランスのために、MRIは必須の検査です。16歳以上の患者さんには必ずベースラインの全身MRIを行い、それ以降も必要に応じて撮影を行っています。30~50歳の女性であれば、乳がんのスクリーニングのために、マンモグラフィーや乳房のMRIも積極的に実施しています。
患者さん・ご家族に伝えていること
ここまで診察についてお伝えしてきましたが、医療関係者の介入だけでなく、患者さんやご家族に病気を理解してもらうこと、そしてご自身で気をつけてもらうことも非常に大切です。
私はNF1の自然経過だけでなく、悪性腫瘍を発症する可能性が一般の方より高いことも必ずお伝えしています。そして、何かあればすぐに病院に連絡をしてもらう、健康診断は必ず受けてもらうなど注意点も説明します。
NF1では発達障害の合併率が高いため、伝え方に工夫が必要です。
岡山大学病院では、説明用の冊子を作成し、それをお見せしながらNF1の病態や注意点を解説するようにしています。
加えて、医師だけでなく遺伝カウンセラーなどあらゆる職種の方より、その専門に応じたNF1の情報をお伝えいただく体制を作っています。
新たな介入選択肢であるコセルゴ®
NF1はこれまで積極的な介入が行われてこなかった疾患です。それは、「根治療法がないから何もできない」と我々医師が誤解していることも要因かと思います。
しかし、ここまで解説いたしましたように、根治療法はなくとも継続的な経過観察は必須です。
加えて近年では、介入方法の選択肢も広がり、以前よりできることが増えてきました。
コセルゴ®の適応は、症状があり、手術で完全切除できない叢状神経線維腫を有する3~18歳のNF1患者さんです。
年齢に制限があるため、小さい頃から診察や検査を行い、必要な患者さんにはタイミングを逃さずに投与することが重要なポイントとなります。
終わりに
本動画をきっかけに、ぜひ「何もできない」から、「積極的な経過観察が必要」、「患者さん・ご家族への丁寧なICが大切」と認識を改めてみてください。その認識が症状や腫瘍に対する早期診断、早期介入の第一歩であり、患者さんのADL・QOL維持につながっていくのだと私は確信しています。
日本レックリングハウゼン病学会のホームページでは、NF1を診療している施設や先生が掲載されています。もし包括的な検査や介入ができないご施設であれば、こちらを参考に紹介をご検討ください。私は、NF1を疑ったタイミングで早めに紹介していただくのがよいと考えています。
医療はどんどん進化してきています。現状、NF1における遺伝子検査は保険適用外*ですが、ゲノム医療の発展に伴い、出生時から遺伝子をチェックし、各自の特性にあった介入を行う未来がくるかもしれません。
そのような未来に期待しつつ、今は動画をご覧のみなさんとNF1診療の基盤を作っていきたい、そう考えています。
*2024年6月から、症状による診断が難しい場合は保険適応