分子標的薬における皮膚関連の副作用マネジメント
監修・出演:朝比奈 昭彦 先生(東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 主任教授)
※医師の所属・役職は動画公開時点のものです
薬物療法の有効性を最大限得るためには、適切な副作用マネジメントが求められます。そこで、今回は「分子標的薬における皮膚関連の副作用マネジメント」をテーマに、東京慈恵会医科大学の朝比奈昭彦先生に皮膚科医の視点からご解説いただきました。
※下部に本動画のスライドと解説を載せています。ご参照ください。
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- 0:06~
- はじめに
- 0:43~
- SPRINT試験第Ⅱ相-1 試験デザイン
- 1:34~
- SPRINT試験第Ⅱ相-1 有効性
- 2:00~
- SPRINT試験第Ⅱ相-1 安全性
- 3:09~
- 副作用マネジメント
- 3:47~
- 副作用マネジメント:爪囲炎
- 6:22~
- 副作用マネジメント:ざ瘡様皮膚炎
- 6:56~
- 副作用マネジメント:皮膚乾燥
- 7:12~
- 治療選択のフローチャート
- 7:25~
- 終わりに
※PCでご覧の方は、クリックでスライドと解説を拡大できます
はじめに
みなさん、こんにちは。東京慈恵会医科大学の朝比奈昭彦です。
医療において、薬物療法は適切な副作用マネジメントが求められます。
本日は、コセルゴ®の副作用マネジメントを、皮膚科医の視点から概説したいと思います。
SPRINT試験第Ⅱ相-1:試験デザイン
コセルゴ®の安全性プロファイルを確認するために、承認の根拠の1つとなったSPRINT試験第Ⅱ相-1をご紹介いたします。
本試験は、病的状態を伴う手術不能な叢状神経線維腫を有する小児期のNF1患者さんを対象に、コセルゴ®を経口投与したときの有効性・安全性を検討する目的で実施された、海外第Ⅱ相試験です。
主要評価項目は客観的奏効率(ORR)、副次評価項目は腫瘍容積の変化、安全性などでした。
本試験では、対象となる患者さん 50例に、コセルゴ® 25mg/m2を1日2回、連日経口投与しました。
SPRINT試験第Ⅱ相-1:有効性
主要評価項目について、標的とする叢状神経線維腫の客観的奏効を達成した患者さんの割合は68%、最良総合効果において病勢安定を含めた病勢コントロール率は96%でした。また、77.1%の患者さんで20%以上の腫瘍容積の縮小が認められました。
SPRINT試験第Ⅱ相-1:安全性
次に、安全性の概要です。
有害事象が98%に、Grade3以上の有害事象が68%に認められました。
また、重篤な有害事象は30%、投与中止に至った有害事象は12%に認められました。死亡に至った有害事象は認められませんでした。
こちらは、発現率が40%以上を示した有害事象一覧です。
主な有害事象は、皮膚乾燥やざ瘡様皮膚炎、爪囲炎などの皮膚症状、消化器症状、及び血中クレアチンキナーゼ(CK)増加でした。
有害事象発現時のマネジメントの1つに減量があります。
本試験では、コセルゴ®減量時の腫瘍容積の変化について解析しています。
コセルゴ®を1~2段階減量した際の腫瘍容積は、図のように推移しました。
副作用マネジメント
本試験の情報から、叢状神経線維腫のコントロールのために、なるべく長期に、適正な用量でコセルゴ®を継続する重要性がうかがえると思います。
ただし、冒頭でも触れたように、その達成のためには適切な副作用マネジメントが求められます。
ここからは、爪囲炎、ざ瘡様皮膚炎、皮膚乾燥について、分子標的薬全般で想定される対処法を紹介します。
副作用マネジメント:爪囲炎
MEK阻害剤による爪囲炎は、MAPK経路の阻害による角化細胞の増殖停止及び早期分化によるものと考えられています。
また、小児では、指しゃぶりや爪噛みにより口腔内細菌叢が手指に直接接種されることで、急性爪囲炎を発症しやすいことも報告されています。
つまり、コセルゴ®を内服する小児患者さんは、特に爪囲炎を発症しやすい状況にあるのです。
対策として、まず予防が重要です。
内服開始時より石鹸洗浄で清潔を保つほか、爪の切り方にも注意します。
具体的には、爪の先端は指先より短くせず、四角に整え、角が滑らかになるようにやすりで削ります。
これは、爪の両端を深く切りすぎると、陥入爪の原因になり、肉芽形成を助長する可能性があるためです。
発症してしまった場合にも、患者さんによる日々の対処が重要となってきます。
たとえば、爪が皮膚に食い込んでいる場合に、悪化予防や疼痛軽減のため、テーピングをしていただくことがあります。
テーピングの1つであるスパイラルテープ法では、伸縮性のあるテープを爪と皮膚の境目に貼り、そこからテープを外側に引っ張り、らせん状に巻くようにします。
薬物療法として、拠点病院での推奨度の高さなどから、初期には副腎皮質ステロイド外用薬が第一選択となることが多いです。
外科的な治療としては、主に部分切除や部分抜爪を行います。爪が陥入している場合、再発しないよう工夫しながら爪を必要最小限に切除することが合理的な治療法であると考えられます。
一方で、全抜爪は爪甲の変形悪化などの報告もあり、勧められていません。
こういった対処の中、もし二次感染が起きてしまった場合には、ステロイド外用薬を中止し、抗菌薬を開始します。
副作用マネジメント:ざ瘡様皮膚炎
次に、ざ瘡様皮膚炎です。
『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン』では、予防として、テトラサイクリン系抗菌薬の内服が弱く推奨されています。ただし、予防投与は保険適用外であるため、注意が必要です。
治療としては、ステロイド外用薬、抗菌薬の外用及び内服が基本となります。
ガイドラインでも、ステロイド外用薬及び抗菌外用薬は、自覚症状や皮疹の軽減を目的に勧められています。
副作用マネジメント:皮膚乾燥
最後は皮膚乾燥です。
保湿薬の使用が勧められています。また、二次性湿疹や瘙痒などの自覚症状を伴う場合にはステロイドの外用薬も推奨されています。
治療選択のフローチャート
ガイドラインでは、爪囲炎、ざ瘡様皮膚炎、皮膚乾燥について、治療選択のフローチャートが示されていますので、こちらもご参考になさってください。
終わりに
適正な用量でコセルゴ®を継続するためには、なるべく早期に副作用へ対処することが重要です。本動画を参考にしていただくとともに、皮膚関連の副作用が出現した場合にはぜひ皮膚科医にご相談ください。
今後、実臨床データや使用経験が蓄積され、コセルゴ®に特異的な副作用マネジメントが確立されていくことを期待しています。