監修者の所属は2023年4月時点の情報です

はじめに

神経線維腫症1型(neurofibromatosis type1、以下、NF1)における叢状神経線維腫(plexiform neurofibroma、以下、PN)の治療選択肢はこれまで、鎮痛等の対症療法を行う積極的な経過観察や、必要に応じた外科的切除に限られていました。しかし、外科的切除は出血リスクや腫瘍の部位により実施が困難な例もあり、新しい選択肢が求められていました。
そのような状況下で、MEK阻害剤であるコセルゴ®(以下、コセルゴ)が「神経線維腫症1型における叢状神経線維腫」を効能又は効果として承認され、2022年11月に発売されました。コセルゴの適正使用にあたっては、製剤プロファイルや患者さんの背景に則したフォローアップが必要不可欠ですが、コセルゴはPNを有するNF1患者さんに対する初めての薬物治療であることや、使用経験が限られることから、実臨床における使用経験の蓄積が重要となります。
そこで本コンテンツでは、神奈川県立こども医療センターの血液・腫瘍科 栁町昌克 先生、皮膚科 馬場直子 先生監修のもと、コセルゴ投与例における患者さんのフォローアップについて、副作用マネジメントを中心に、経験を共有していただきました。

取材年月:2023年4月

血液・腫瘍科の立場から 副作用マネジメントの実際と注意点

コセルゴの副作用マネジメント

NF1におけるPNは、体積が継続的に増加し、自然退縮は認められない症候です。PNは合併症を引き起こすだけでなく、その体積増加によってQOLを低下させます。患者さんの日常生活をよい状態で維持するために、PNのコントロールが治療の主目的になります。コセルゴは、PNを有するNF1患者さんに対する初めての薬物治療選択肢であり、PNをコントロールするという主目的達成のためには適正用量で続けることが重要です。
また、そのためには適切な副作用マネジメントが欠かせませんが、日本での使用経験が限られているのが現状です。そこで、血液・腫瘍科でコセルゴを投与した3名の患者さん(症例1~3)での経験をご紹介します(図1)。

症例の紹介
【症例1】

幼児期*の男の子で、後腹膜にPNが認められます。痛みの症状があり、片足を動かしたがらないという状況でコセルゴが投与されました。副作用は、投与後最初の外来受診(Day14)でGrade1の下痢、蕁麻疹が認められました。下痢に対しては整腸剤の投与、蕁麻疹に対してはステロイド外用薬の塗布を行い、次の受診時には軽快しています。

*コセルゴ電子添文2023年12月改訂(第3版)
7.3 18歳以下で本剤により薬物治療を開始した患者において、18歳を超えて継続投与する場合には、治療上の有益性と危険性を考慮して慎重に投与すること。」

【症例2】

思春期の女性で、眼瞼、眼窩内にPNが認められます。眼瞼下垂があり、外科切除も難しいためにコセルゴが投与されました。副作用は、投与後最初の外来受診(Day21)でGrade1の下痢が認められました。下痢に対しては整腸剤の投与を行い、次の受診時には軽快しています。

【症例3】

思春期の女性で、眼瞼から側頭骨にPNが認められます。増大する皮下腫瘤が認められ、コセルゴが投与されました。副作用は、投与後最初の外来受診(Day14)でGrade1の下痢、ざ瘡様皮膚炎が認められました。下痢は経過観察、ざ瘡様皮膚炎に対してはステロイド外用薬の塗布を行い、次の受診時には軽快しています。

いずれの症例においても、コセルゴの用量を変更することなく、継続しています。
今回の症例では認められませんでしたが、コセルゴの臨床試験では悪心・嘔吐が主な副作用として報告されています。今後、悪心・嘔吐が認められた場合、制吐剤の投与が選択肢に挙がります。また、眼障害については定期的に眼科を受診いただく必要がありますし、皮膚障害が発現した場合には皮膚科を受診いただくこともあるように、副作用マネジメントにおいては他科との連携を常に念頭に置く必要があります。

患者さんとのコミュニケーション

患者さんとのコミュニケーションの観点では、まずコセルゴ導入時に、予想される副作用やその対処法について事前に説明し、患者さんに理解していただくことが大切です。患者さんには、『コセルゴ®による治療を受ける患者様とご家族へ』(🅐)を活用して説明し、服用冊子『コセルゴ®を服用される患者様とご家族へ』(🅑)もお渡ししています。この冊子には、身近でできる対処法も掲載されているので、患者さんの安心につながると考えています。
また、実際に副作用が発現した場合には、詳細な聞き取りを行い、服用継続の意志を確認します。症例2では、患者さんご自身がPNへの効果を実感できておりませんでした。特にこのような場合、服用を継続する意思に影響することがあるため注意が必要です。臨床試験における奏効までの期間のデータを参照しながら、期待されるメリットと副作用等のデメリットを患者さんと一緒に考え、メリットの最大化を目指すことが重要となります。

患者説明用資材

  • 🅐『コセルゴ®による治療を受ける
    患者様とご家族へ』
  • 🅑『コセルゴ®を服用される
    患者様とご家族へ』

副作用以外の注意点

コセルゴを導入する場合、服薬のタイミング、カプセル剤であること、受診頻度の増加、医療費助成制度が障壁となる場合があります。
用法については、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けつつ、1日2回服用する必要があります。自己管理ができる患者さんの場合は、1回目を学校で服用するといった工夫も考えられます。自己管理ができないような年齢であれば、保護者の協力が不可欠になります。カプセル剤であることについては、主に年齢が問題となり、小さなお子さんでは障壁となることがあります。お子さんのモチベーションを高める工夫等、保護者の取り組みがポイントとなるかもしれません。PNを有するNF1患者さんは、もともとは数か月~1年に一度の頻度で受診していることが多いため、コセルゴ導入による受診頻度の増加は避けられません。この点も、きちんとした説明と患者さん、ならびに保護者のご理解が必要です。
最後に、医療費の助成制度を患者さんや保護者にきちんと知っていただき、必要な準備を整えていただくことも忘れてはいけません。こちらも上述した服用冊子(🅑)で紹介されておりますので、うまくご活用ください。

治療に対する考え方

NF1患者さんにおけるPNに対する治療選択肢は、痛みに対する鎮痛等の対症療法を除けば、外科切除、そして2022年11月に発売となったコセルゴを用いた薬物療法です。PNを有するNF1患者さんの診療では、症状や腫瘍の状態、年齢を考慮し、これらの選択肢の適応を考えることが重要となります。
患者さんがPNに伴う症状で困っている場合、まずは外科切除を検討します。しかし、出血や後遺症の観点から適応が難しい症例が少なくありません。
一方でコセルゴは、症状があり、外科切除で完全に腫瘍を取り切れない3~18歳のPNを有する患者さんが対象です。症状は患者さんによってさまざまですが、例えばPNにより運動機能障害が出ている、神経を圧迫している等が挙げられます。

皮膚科の立場から 副作用マネジメントの実際と適正使用

コセルゴの副作用マネジメント

皮膚科でコセルゴを投与した1名の患者さん(症例4)をご紹介します(図2)。

【症例4】

学童期の女の子で、顎から左の肩、胸にかけてPNが認められます。PNは、触れると表面は柔らかいですが、その奥にゴロゴロと細かい石のような硬いものが触れました。幼少期からカフェ・オ・レ斑が大小多数みられ、胸から背中にかけて大きい斑があり、早期からPNが全体的に膨らんできました。ランドセルを背負うのが痛いという主訴があり、コセルゴを投与しました。
副作用は、投与後最初の外来受診(Day13)で両口角炎(Grade1)、2回目の外来受診(Day28)で血中CK上昇が認められました。両口角炎に対しては非ステロイド外用薬の塗布、血中CK上昇は経過観察とし、ともに軽快しました。コセルゴの減量・休薬には至らず、現在も継続しています。

コセルゴ治療の継続意思に影響するもの

症例4は、コセルゴの投与開始から3か月は、患者さんご本人がPNに対する影響を感じられない日々が続きました。これは裏を返せば、3か月は副作用だけを経験する期間となったわけです。
薬物治療による影響は患者さんによって異なることを、患者さんにきちんと伝えておくことが大切です。本症例も、その点を事前に説明することで患者さんの離脱を防ぎ、きちんと飲み続けたことでPNへの影響を実感するようになりました。
このポイントは副作用についても同様で、事前の説明が非常に重要です。導入時には、患者さん説明用の資材(『コセルゴ®による治療を受ける患者様とご家族へ』(🅐)『コセルゴ®を服用される患者様とご家族へ』(🅑))を活用するようにしています。
コセルゴの導入にあたっては、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避ける、1日2回服用、という用法に不安を覚える患者さんや保護者もいらっしゃると思います。しかし、その患者さんに最適な服用タイミングがあるはずですので、試行錯誤してみることが大切です。学童期であれば、学校の先生に協力を求めるという選択肢も考えられます。
このような工夫により、コセルゴの適正使用を行い、治療を継続するようにしていきたいと思います。

患者説明用資材

  • 🅐『コセルゴ®による治療を受ける患者様とご家族へ』
  • 🅑『コセルゴ®を服用される患者様とご家族へ』

NF1患者さんの来歴とフォローアップ

ここでは、NF1患者さんの当院における一般的な来歴についてご紹介します。
NF1患者さんの主要な症状であるカフェ・オ・レ斑は出生時からみられることが多く、新生児の時点で他院から紹介されるケースが多いです。その場合、皮膚症状のため皮膚科が最初の窓口となることが少なからずあります。家族歴の有無については孤発例の方が若干多い印象をもっており、紹介時に確定診断に至らないことも多々あります。1年に1度の受診を基本としてフォローアップし、NF1に関する症状が複数出現する等、診断基1)をもとに診断しています。お子さんがNF1疑いとなった場合、保護者にはNF1という病気についてきちんと理解いただき、必要以上に悲観することのないよう配慮するように工夫しています。具体的には、症状の出方やその程度は患者さん毎に異なること、大きな支障なく生活を送る患者さんもいらっしゃること等をお伝えします。
NF1患者さんの症状は非常に多様であるため、フォローアップにおいては関連する診療科との連携が必須です。例えば虹彩小結節は眼科、脊椎の側弯やサイズの大きなPNは整形外科、発達障害やけいれん等神経症状は神経内科や、ときには児童精神科を受診いただきます。また、特に神経症状がみられる場合には、神経内科でMRIを撮っていただき、腫瘍の状態を確認することもあります。このように他科と連携しながら、患者さんの症状にあわせた診療を行っています。

1)神経線維腫症1型診療ガイドライン改定委員会(編). 日皮会誌 128(1): 17-34, 2018

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