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はじめに

神経線維腫症1型(以下、NF1)は、腫瘍増殖を抑制するNF1遺伝子のバリアントにより発症すると考えられています。そのため、非NF1の方に比べて腫瘍ができやすく、特に悪性末梢神経鞘腫瘍(以下、MPNST)の発症に警戒が必要です。このMPNSTは、NF1で特徴的な叢状神経線維腫(PN)という良性腫瘍が悪性転化して発症する可能性もあり、叢状神経線維腫時点での早期発見が求められています。
そこで本コンテンツでは、大阪市立総合医療センターの小児脳神経内科 岡崎 伸先生、九鬼 一郎先生より「小児期のNF1患者における腫瘍スクリーニングの重要性」について、中央放射線部 村田 佳津子先生、放射線技師 久島 昌巳先生より「独自に開発した全身スクリーニングのためのMRI撮影方法」について、実臨床のご経験をもとに解説いただきました。

取材年月:2023年8月

本コンテンツのポイント

  • NF1患者さんでは、重大な合併症を引き起こす可能性がある腫瘍の早期発見が求められています。
  • 腫瘍発見のためにはMRIが有用ですが、撮影時間の長さ等の問題もあり、全身の腫瘍スクリーニングとして積極的には使用されていませんでした。
  • 上記を解決し、無理なくMRIによる全身スクリーニングを行うために、大阪市立総合医療センターは独自に撮影方法を開発しました。その撮像パターン、撮像条件は図表のとおりです。

小児期のNF1患者における腫瘍スクリーニングの重要性

小児期のNF1患者さんの目標と課題

NF1は、根治の手段がなく、年齢や出現した症状にあわせて適宜介入が必要な疾患です。そのため、我々は「病気を治すこと」ではなく、「NF1に起因する困りごとを減らし、患者さんが自分らしく人生を謳歌できるようサポートすること」を基本的な目標として、日々診療を行っています。
この目標を達成するためには、重大な合併症を引き起こす可能性がある腫瘍を早期に発見し、適切なケアを行うことがポイントとなります。しかしこれまでは、生活に支障が出るまで腫瘍を発見できないケースも少なくありませんでした。その大きな原因は、身体所見だけでは検出できない深部に腫瘍が発生する可能性があるというNF1の病態にあります。また、幼少期であれば検査に対する恐怖心やことばの発達の面から身体の不調を伝えにくい、安静が難しく検査が実施できない、思春期であれば複雑な心理状況から症状を素直に相談しにくい等、成長過程にある患者さん特有の障壁も無視できません。
近年、当科ではその解決策として、MRIによる全身スクリーニングを放射線科と連携し、実施しています。本コンテンツでは、その有用性や工夫について紹介したいと思います。

MRIによる全身スクリーニングの有用性と実施のコツ

医師や患者さん自身も認識できていない腫瘍を発見するためにはMRIが有用であり、そのなかでも局所撮影ではなく全身撮影が最も目的に沿った検査手段と考えています。しかし、撮影時間の長さ等の問題から、NF1患者さんの腫瘍スクリーニングに全身のMRIは今まで積極的に使用されていませんでした。そこで当院では、撮影回数や時間を調整することで無理なくスクリーニングができるMRIの撮影方法を開発し、小児期のNF1患者さんに導入しています。

実際の症例として、10歳の患者さんに全身スクリーニングを行ったところ、深部の叢状神経線維腫が見つかりました。患者さんも気づいておらず、撮影後に改めて触診をしても軽く触れる程度で、通常の診察だけでは非常に分かりづらい腫瘍でした。このような経験から、全身スクリーニングを導入することで、早期発見につながる症例を増やしていけると期待しています。
あくまで私見ではありますが、全身スクリーニングの実施タイミングや局所撮影との使い分け等について、次で解説したいと思います。

※詳細なMRIの撮影方法については、「放射線科の視点から」をご参照ください。

MRIによる全身スクリーニングの撮影タイミング

患者さんに自覚症状がない場合でも、小児期に最低2回は全身スクリーニングが必要ではないかと考えています(図1)。1回目は、リスクのある鎮静をせずにMRIが実施でき、なおかつ腫瘍の発生リスクも上がってくる10歳頃。2回目は、診療科が小児科から切り替わるタイミング(トランジション)である15~18歳頃です。トランジション時には患者さんを引き継ぐ診療科を検討しますが、全身スクリーニングで腫瘍が見つかれば、その部位にあわせた最適な診療科の選択が可能です。また、部位や症状によっては、引き続き小児科で診療するという選択肢も起こり得るでしょう。

『叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍 診療ガイドライン』のCQ2では、NF1患者さんにおけるPNスクリーニングのためにWBMRI(Whole Body MRI)を用いることについて、「症状がある患者、WBMRIを撮像できる専門医療施設あるいは連携施設、などを対象に条件付きで実施することを推奨する」とされていま1)また、「悪性化する可能性のある腫瘍を有する患者が抽出できることなどから、無症候性の患者のWBMRI撮像を否定するものではない」とも記載されていま1)

トランジションにあわせた全身MRIについては、欧州のガイドライン(ERN GENTURIS腫瘍サーベイランスガイドライン)2)でも言及されています。具体的には、叢状神経線維腫はMPNSTへ悪性転化するリスクがあるため、叢状神経線維腫の存在とその負荷を全身MRIで確認することが推奨されているのでなお、無症候性の患者に対しての全身MRIは保険適用外となっています。
また、当然ですが腫瘍を疑うような所見があり、全身の検索が必要とされる場合には、年齢によらずMRIによる全身のスクリーニングを検討します。

  • 1)叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編): 叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 2024
  • 2)Carton C. et al.: EClinicalMedicine 56: 101818, 2023[COI:著者の中には、アストラゼネカ株式会社より資金提供を受けた者が含まれる]
MRIにおける全身撮影と局所撮影の使い分け

NF1患者さんの腫瘍スクリーニングにおいて、両者は役割が異なります(表1)。解像度は低いものの頭部から下腿までもれなく評価できるため、全身撮影は腫瘍の可能性がある部位の顕在化に役立ちます。一方、局所撮影の役割は、全身撮影で顕在化した腫瘍の詳細な評価です。また、小児NF1患者さんで注意が必要な視神経膠腫をはじめとする頭部の腫瘍については、全身撮影では見つけることが難しく、頭部MRIが最適だと考えています。

繰り返しますが、これらはあくまで私見に過ぎません。今後、全身撮影の普及に伴い使い方についても検討が重ねられ、最適な戦略が構築されていく、今はまさにその過渡期だと感じています。

小児期の患者さんに対するMRI撮影の工夫

小児期の患者さんでは、安静が保てない、検査が怖い等の理由から、撮影を断念せざるを得ないこともあります。そこで、当院ではさまざまな工夫を行い、患者さんが安心して検査に取り組めるようサポートしています(表2)。また、これらの結果、鎮静をせずに、もしくは鎮静剤の量を少なくして撮影できる患者さんが増えており、安全な検査にもつながっています。

このような工夫を行うには、多職種連携が不可欠です。撮影や読影では放射線科の先生や技師、プレパレーションではホスピタルプレイスペシャリストや看護師、鎮静を行う場合は麻酔チーム等、さまざまな診療科・職種の皆様に協力いただいています。このような連携をスムーズに行うためにも、常日頃から関連する方々と良好な関係を構築しておくことが大切です。

現在の診療とこれからへの期待

MEK阻害剤であるコセルゴ®の登場により、MRIを活用した全身の腫瘍スクリーニングやそのための連携が、大きく前進しようとしています。これまでは深部の叢状神経線維腫を発見できたとしても、切除が難しければ有効な治療法がなかったなか、コセルゴ®という選択肢が出てきたことで、腫瘍発見の意義がさらに大きなものとなりました。腫瘍スクリーニングをどのような連携のもと、どのように実施し、どう対処していくのか。それらが明確になっていくことで、NF1診療にパラダイムシフトが起きると感じ、期待しています。
本コンテンツが、そのための一助となれば幸いです。

独自に開発した全身スクリーニングのためのMRI撮影方法

日常診療で実施可能な全身スクリーニングの普及を目指して

腫瘍の増大によるQOL低下や悪性転化のリスクのあるNF1は、腫瘍を早期発見したうえで適切なフォローアップを行うことが重要です。しかし、身体の深部にできた腫瘍の場合は、発見が難しく、進行した状態で発見されることが少なくありません。また、腫瘍スクリーニングにはMRI検査が有用ですが、全身を撮影するには長い時間を要するため、小児期の患者さんには負担が大きいことや、検査室のルーティン業務に組み込みづらいといった課題がありました。
本コンテンツでは、それらの課題を解消するために我々が開発した、小児期のNF1患者さんに対する全身スクリーニングのためのMRI撮影方法についてご紹介します。

全身スクリーニングを目的としたMRI撮影方法

小児・AYA世代のLi-Fraumeni症候群を対象とした臨床試験で使用されていたMRIによる全身撮影方法を参考に、撮影時間と腫瘍スクリーニングに必要な解像度のバランスを考慮して、撮像パターンと撮像条件を図1、表1のように設定しました。

* 「Li-Fraumeni症候群に対するがんサーベイランスプログラムの実行可能性と新規バイオマーカーを探索する多施設共同前方視的臨床試験」、臨床試験登録番号:UMIN000045855、2024年9月現在進行中

撮像パターンについて、初回のスクリーニングでは、頭頸部から骨盤まで、骨盤から下腿までと全身を2回に分け、月をまたいで撮影します。そうすることでそれぞれの撮影時間は25分程度となり、通常のMRI検査の時間枠で実施することができます。また、患者さんの身長によっては撮影時間をさらに短縮可能です。拡散強調画像(以下、DWI)(軸位断)、STIR画像(short TI inversion recovery 画像)(冠状断)により疑わしい腫瘍像を検出し、T2強調画像(シングルショット、軸位断)、T1強調画像(Dixon法、冠状断)により正常構造を除外します(図2)。T2及びT1強調画像は正常構造像を一度得られれば以降は不要であるため、フォロー検査からは省くことができ、1回の検査で済むようになります。

撮像条件は、一般的な全身MRI検査とは大きく異なります。撮像視野は通常200〜300mm程度ですが、本条件では500mmとしています。撮像視野が大きい分、歪みが起こるリスクも上がりますが、複数の画像を組み合わせることで対応しています。マトリックスも一般的な設定よりも下げ、スライス数は多くしています。
これらの設定は機器のメーカーごとに調整が必要なため、先生方が実施する際には、医療機器メーカーの担当者とよくご相談ください。当然ですがMRIは、時間を掛けるほど解像度の高い画像が作成されます。しかし、大切なのは、腫瘍スクリーニングの観点から、「腫瘍を疑い、正常構造を除外できる最低限」を見極めることです。

実際の読影症例

症例を使用し、実際の読影例をご紹介します。
図3は骨盤の画像です。DWIで腫瘍を疑う高信号が多数認められましたが、T2強調画像で確認すると形や位置からそれぞれリンパ節と神経線維腫であることがわかりました。リンパ節はサイズが小さく左右対称であること、正常構造で存在していても自然な位置であることから判断可能です。神経線維腫はターゲットサインから判定でき、さらに叢状神経線維腫では集簇し連続した形態であることや大きさも参考になりました。

同様に骨盤の画像である図4でもDWIで高信号の箇所があり腫瘍を疑いましたが、T2強調画像を確認すると小さい嚢胞構造の結節像であることがわかり、卵巣と鑑別できます。

最後は頸部の画像である図5です。DWIでは高信号の箇所が複数存在します。T2強調画像で確認すると、青で示した箇所は頸動脈周囲でリンパ節がみられる箇所であること、左右対称であること、円ではなくだ円に近いことからリンパ節と判断できます。一方、黄色で示した箇所について、リンパ節は皮膚や皮下にみられることが少ないため除外でき、円形であることや位置から皮下に存在する神経線維腫と考えました。

お伝えした読影のポイントは図6にまとめていますので、そちらもご参照ください。

撮影中の工夫

小児期の患者さんがMRIを完遂するため、検査室の見学や丁寧な説明といった検査前の取り組みに加え、撮影中にできる工夫もあります。安心感を持ってもらえるように撮影中に起こることを再度説明する、長時間安静にしていられるか本人と相談しながらポジショニングをする、適宜声かけを行う等です。また、保護者がいると安心する患者さんもいるので、MRIが禁忌でない場合は、保護者の同室も選択肢に入れています。

MRIによる全身スクリーニングの導入にあたって

当院では実際に、こちらの撮影方法でNF1患者さんの腫瘍スクリーニングを実施しています。そのなかで医師も患者さんも気づかぬ部位に腫瘍が見つかる場合があること、腫瘍スクリーニングにおいてMRIは非常に有用であることを改めて実感しています。
ただし、MRIによる全身スクリーニングの課題が、これですべて解決するわけではありません。撮影方法もこれで完成したわけではなく、ほかのご施設からさらに時間を短縮するための相談を受けることもありますので、まだまだ改良の余地があると感じています。撮像の細かな設定は機器メーカーによって異なりますので、導入にあたっては各ご施設での調整も必要です。全身スクリーニングの頻度についても決まった基準がなく、私見では明らかな病変がない場合で2~3年に1度、病変はあるが治療の必要がない場合は半年~1年に1度と考えていますが、今後のエビデンス構築が求められています。
このようにまだまだ課題も多いですが、MRIによる腫瘍スクリーニングは、NF1患者さんに大きなメリットとなるでしょう。本コンテンツでご紹介した方法を、NF1に対するMRI検査にご活用いただければ幸いです。

補足情報

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