監修者の所属は2024年2月時点の情報です

はじめに

神経線維腫は、神経線維腫症1型(以下、NF1)の特徴的な症状として知られています。この神経線維腫は大きく2つのタイプに分類され、1つは「皮膚の神経線維腫」、もう1つは神経の神経線維腫とびまん性神経線維腫を含む「叢状神経線維腫」で1)叢状神経線維腫は、NF1の約30%、全身MRIで検索すると約50~60%の患者さんで見つかるという海外のデータもあ2-6)NF1患者さんにとっては注意すべき症状の1つといえます。
コセルゴ®は、この「神経線維腫症1型における叢状神経線維腫」に対する初めての経口治療薬です。2022年11月の発売以降、処方が広がり、実臨床におけるデータが徐々に蓄積されつつあります。そこで今回は、発売早期からコセルゴ®を使用されている東北大学病院小児科の新妻秀剛先生に、治療継続のコツをテーマとしてご解説いただきました。

  • 1)Yoshida Y.: Keio J Med, doi: 10.2302/kjm.2023-0013-IR, 2023[COI:著者は、アレクシオンファーマ合同会社より謝礼金を受け取っている]
  • 2)Huson SM. et al.: Brain 111(Pt 6): 1355-1381 ,1988
  • 3)Plotkin SR. et al.: PLoS One 7(4): e35711 ,2012
  • 4)Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
  • 5)Mautner VF. et al.: Neuro Oncol 10(4): 593-598, 2008
  • 6)Nguyen R. et al.: J Pediatr 159(4): 652-5.e2, 2011

取材年月:2024年2月

コセルゴ®治療継続のコツ

コセルゴ®の価値

叢状神経線維腫は、疼痛等の神経症状、見た目の変化による社会的障害に加え、出現部位によっては生命予後に関わる重大な症状を引き起こす腫瘍です。しかし、唯一の治療であった外科切除の適応となる症例は限定的で、適応症例であっても完全切除できるケースは少なく、やむなく経過観察となる患者さんがいらっしゃいました。そのため、コセルゴ®の登場は、まさにNF1診療の新しい時代の幕開けだったのではないでしょうか。私自身、コセルゴ®の存在を知り、これまで治療ができなかった患者さんにコセルゴ®を処方したいと他診療科より紹介いただくようになったことで、大きな変化を実感しています。
これまでの経験から、コセルゴ®は治療継続が重要な薬剤だと感じています。本稿では、そのためのポイントを、副作用マネジメントを中心に解説していきたいと思います。

治療継続のコツ ① 副作用マネジメント

マネジメント戦略

副作用には複数の対処法があることが多いですが、コセルゴ®の場合、私は可能な限り対症療法を選択しています。もちろん、患者さんに清潔を保ってもらう等の生活上の予防行動は実施していただきますし、電子添文に記載の用量調節基準に合致した場合は減量を考慮しますが、やはり対症療法でコントロールできるに越したことはありません。
そのためにも、重大な副作用の症候が出現していないか、診察や検査で確認を行い、早期に異常を見つけられるよう努めています。また、服用開始早期には副作用が発現しやすい印象がありますので、治療期間も考慮してフォロー頻度を検討します。

症例紹介

当院の小児科では、3歳から18歳の患者さん6例にコセルゴ®を投与しています。全例で中止・減量はありませんが、手術といった身体の回復を優先すべきイベントがある場合には、短期の休薬を挟んでいます。副作用の発現状況も含め、全体の経過を図1にまとめました。
ここからは、特に注目すべき患者さんに焦点を当て、詳細な副作用マネジメントについてお伝えいたします。

こちらの患者さんは、服用開始直後よりざ瘡様皮膚炎を認め、クリンダマイシンオゼノキサシンを中心とした外用薬を処方しています。ざ瘡様皮膚炎をはじめ皮膚障害は、コセルゴ®で起こりやすい副作用の1つです。適応患者さんには思春期の方もいますので、見た目でわかる副作用は強い負担に感じることもあります。そのため、服用開始直後からスキンケアを指導し、皮膚障害の発生予防に努めています。
また、服用開始直後に単発で起きることの多い下痢が、1年経過した今でも発現することがあります。患者さん本人からは服用を止めるほどではないと聞いているため、ロペラミドを処方し必要時に頓用してもらっているところです。幸いにも消化器症状は軽度であり、どの患者さんも消化器内科への紹介には至っておりません。

約3か月間、服用がうまくできていなかった患者さんです。一番の原因は、早朝の服用による悪心でした。そこで服用時間を朝食2時間後に変更すると、悪心が治まり、服薬コンプライアンスが改善しました。

こちらの患者さんは、服用開始直後より口内炎が発生しました。口内炎は不快感が強く、食欲にも影響する注意すべき副作用です。そのため、服用が決まった段階からすべての患者さんへ予防的に口腔内を清潔に保ってもらうよう指導しています。もし、出現してしまった場合には、軟膏治療剤トリアムシノロンアセトニド等を処方し、治癒後もうがい薬で発生予防に努めています。

皮膚の副作用の対処は、文献も参考にしています(図2参照)。こちらの患者さんは顔面に軽度のざ瘡様皮膚炎が出現したので、外用のクリンダマイシンを処方し対応していました。しかし、その後下肢にも皮疹が広がり、また体重増加等も認められました。そこで、皮膚科の先生とも相談し、オゼノキサシン外用、アモキシシリン ・ドキシサイクリン内服を行い、ようやく改善してきました。皮膚障害への対処に苦労する場合には、皮膚科との併診が重要だと思います。
また、コセルゴ®については保護者の方とも相談し、予定していた増量を一時的に行わず、慎重に経過を追いました。薬剤の投与は当然適正用量であるべきなので、今後成長にあわせた用量とする予定です。
そのほか、服用1か月目には悪心・嘔吐がみられたものの、時間経過とともに治まってきました。初期に下痢も認めましたが、単発でした。

*各薬剤の詳細は、電子添文をご確認ください。

コセルゴ®の用法及び用量

  • 6.用法及び用量
    通常、小児にはセルメチニブとして1回25mg/m2(体表面積)を1日2回空腹時に経口投与するが、患者の状態により適宜減量する。ただし、1回量は50mgを上限とする。
服用前、服用中の検査・確認事項

処方前の検査や確認は、コセルゴ®の適正使用ガイドの内容だけでなく、ほかのMEK阻害剤の情報等も加味して実施しています(図3)。

図4で示しているように、副作用の出現時期も考慮し、服用開始後の診察・検査は1回目のみ2週間後、それ以降は4週間毎としています。診察と各検査を同日にできるよう、診察時に次回の受診日にあわせて検査も予約しておきます。そして、私自身が実施を忘れないことも大切です。検査の種類とタイミングをカルテの目立つ箇所に記載し、リマインドできるようにしています。
また、必ずしも院内ですべてをフォローする必要はありません。移動や待ち時間を短縮するため、患者さんが信頼できる病院があれば、眼科検査や皮膚の副作用への対処等は紹介状をお渡しし、かかりつけ医の先生にお願いしています。

治療継続のコツ ② 治療効果の考え方

コセルゴ®服用中の患者さんのなかには、明らかな腫瘍の縮小を認めていない方もいらっしゃいます。患者さんは誰しも治療効果に期待して治療を開始しますので、腫瘍の縮小が認められないことは服薬コンプライアンスの低下を招きかねません。これは医師にもいえることですが、腫瘍縮小が認められないことと治療効果がないことはイコールではないと理解しておく必要があります。
叢状神経線維腫は、増大するリスクを常に有しています。つまり、「腫瘍の大きさが変わらない」ことは、「本来起こっていた腫瘍の増大を抑制している」可能性があるわけです。また、画像上大きな縮小はなくとも、痛みがなくなった、靴が履けるようになった等、自覚症状の改善や生活上の利益(参考情報)につながっている場合もあります。
そのため、治療効果については慎重に評価しなければなりません。私は治療によるベネフィットがリスクを上回っているかぎり、コセルゴ®の投与は継続していくべきだと考えています。

治療継続のコツ ③ Shared Decision Makingの実践

治療継続における1番のポイントは、Shared Decision Makingを通して、患者さん・ご家族の服用に対する積極的な姿勢を作っていくことです。「良いことも悪いことも理解して、自分で選択した治療」として、患者さんに覚悟をもって服用を開始してもらうことが、服薬コンプライアンスの遵守や副作用出現時の服用継続へつながっていくと考えています。以下で、その具体的な取り組みを紹介します。
まず、薬について正しく理解いただくために、患者さんに分かりやすい形で説明するようにしています。コセルゴ®の場合、患者さん説明用の紙芝居型の冊子や薬の説明が書かれたパンフレット等が用意されていますので、それらを活用して薬の特徴や副作用の種類、発現時期について説明します(図5参照)。また、臨床試験のデータだけでなく、これまでの経験も含めてお話するようにしています。コセルゴ®の服用タイミングは、治療開始後の生活を具体的にイメージいただけるよう、患者さんのライフスタイルを聞き取り、患者さん・ご家族と一緒に検討するようにしています。こうして、コセルゴ®をきちんと理解いただいた上で、服用を決めていただくのです。
また、患者さんが中高生であれば、ご家族ではなく自分で治療を決定してもらい、診察時もご自身で状況を伝えていただくようにしています。思春期に入りご家族がすべてを把握しているわけではないことも理由の1つですが、なによりも誰かに言われてただ服用している場合と、治療に参加しているという意識がある場合では、モチベーションに大きく差が出るためです。ただし、すべてをおひとりでやっていただくわけではありません。服用忘れがないように声をかけてもらう等、適宜ご家族にも協力をいただいています。

  • どちらもWEBサイトより
    ダウンロード可能です。
    • ダウンロード画面:
      WEB TOP>資材一覧>医療関係者向け/患者さん向け
  • 医療関係者向けサイト
    https://koselugo.jp/hcp/

1年3か月の投与を経て

処方する前は、臨床試験(SPRINT試験第相-1)での有害事象発現率から安全性に懸念がありました。しかし、実際に処方してみると、自験例6例では投与中止に至る患者さんはおらず、副作用の対処のために他診療科へ頻繁に紹介することもありませんでした。確かに多くの患者さんで副作用は出現しますが、適切なマネジメントによりコントロール可能だと、これまでの経験から感じています。
叢状神経線維腫は、患者さんにとって負担の大きい症状を引き起こすことがあります。もし、コセルゴ®の投与を悩んでいらっしゃるのであれば、思い切って治療をはじめてみるのはいかがでしょうか。Shared Decision Makingによって患者さん・ご家族の治療意思をかため、処方を開始する。処方中の副作用マネジメントは、丁寧に経過を追いながら、患者さんから学ばせていただく。そうして、患者さんと一緒に懸念事項を解消していけばよいのです。その姿勢が、服用継続にもつながっていくのだと信じています。処方の際には、本コンテンツが参考となれば幸いです。

コセルゴ®の効能又は効果

  • 4. 効能又は効果
    神経線維腫症1型における叢状神経線維腫
  • 5. 効能又は効果に関連する注意
    • 5.1 疼痛や外観上の変形等の臨床症状を有し、重大な合併症のリスクを伴うことなく切除できない叢状神経線維腫を有する神経線維腫症1型患者に対し投与すること。[17.1.1、17.1.2参照]
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