NF1の診療連携とPNスクリーニング・治療
取材年月:2024年9月
神経線維腫症1型(NF1)診療は連携が不可欠
NF1は、多様な症状を呈する常染色体顕性の遺伝性疾患です。皮膚や眼、骨等、症状が発生する部位も多岐にわたるため、早期発見と適切な治療のためには、多診療科・多職種連携が欠かせません。実際当院でも、皮膚の問題には皮膚科や形成外科、脳の腫瘍には脳神経外科・内科等、あらゆる診療科や職種が関わっており、「連携の必要性」はNF1の代表的な特徴ともいえるでしょう。
このような疾患であるため、「複数の症状がある場合、どこの診療科を受診すべきか分からない」という患者さんの声をよく耳にしていました。そのため、当院では、形成外科に「神経線維腫症専門外来」を開設し、患者さんが受診先に迷わないための窓口として、そして他の診療科とつなぐハブとして活動をはじめています。
京都大学医学部附属病院におけるNF1診療
NF1患者さんが当院に来られるルートはさまざまです(図1)。もちろん他の病院の先生方が「神経線維腫症1型」で調べて紹介してくださる場合には、やはり名前が出ている専門外来、つまり形成外科への紹介が多いと感じています。とはいえ、患者さんが子どもの場合には、他の病院の小児科から当院の小児科にご紹介いただくこともありますし、出現している症状の専門診療科にいらっしゃることもあります。
NF1は、全身のフォローを続けていく必要がある疾患です。当院への入り口はさまざまですが、このフォローは、主に形成外科(専門外来)と小児科がハブとなって実施しています(図2)。大学病院は専門性が高く、それぞれの診療科でNF1を包括的に診療することが難しい環境にあります。そのため、我々形成外科や小児科で患者さんの全身状態をチェックし、何か見落としがないか確認すること、疑わしい症状があれば専門診療科に繋いでいくことが非常に重要だと考えています。
以前は各診療科で独自に診療していることが少なくありませんでしたが、専門外来ができてから前述のように患者さんが集約され、診療科横断的な管理が可能になってきました。また、地域の先生が参加される講演会で、「症状がなくても、スクリーニング等のために紹介していただいてかまいません」とお伝えしているので、確定診断がついていない段階からご紹介いただく等、病院間の紹介のハードルも下がってきていると感じます。最近では、このように院内連携・地域連携が進み、NF1診療の体制が整いつつあることを実感しています。
叢状神経線維腫(PN)のスクリーニング
PNスクリーニングの意義
PNは、さまざまな合併症を引き起こすだけでなく、予後不良な悪性末梢神経鞘腫瘍(以下、MPNST)へ悪性転化するリスクがあるため、NF1患者さんにおいて特に注意すべき症状の1つです。適切にフォローすることで、早めに悪性転化に気づけるかもしれませんので、PNを見つけておくことは非常に有用だと考えています。
PNを把握するためには、スクリーニングが不可欠です。臨床的に見つかるPNの割合よりも、Whole Body MRI(以下、WBMRI)でスクリーニングをして見つかるPNの割合の方が高いと報告されていますし(海外データ)1-3)、当院でもWBMRIを実施した患者さんのうち、半数以上でPNが見つかっていますが、その中には外観からでは分からなかった症例も少なくありません(図3)。
京都大学医学部附属病院におけるスクリーニング
当院では、ERN GENTURIS(European Reference Network on Genetic Tumour Risk Syndromes)腫瘍サーベイランスガイドライン4)等のガイドラインの記載を基に、WBMRIでスクリーニングを行っています(表1、2)。悪性腫瘍の発生率が高いNF1 (海外データ)5)では、なるべく放射線被曝は避けたい、PNは水分含有量が多くMRIで見つけやすい、PNは全身のどこにでもできる可能性がある、といった点からも、現状ではWBMRIがPNを見つけるためのベストな選択肢だと考えています。
過去に検査されていない症例については、鎮静がなくても安静にできる10~16歳頃に1度は撮影するようにしています。経験として、他の症状が重症であればPNがある可能性が高いと感じていますので、該当する患者さんでは早めの撮影も考慮します。
成人患者さんの場合、これまでどこの病院でも検査をしたことがない方には、体の深部のPNやMPNSTを見落としていないかチェックするため、WBMRIを行うこともあります。ただし、1回撮影して何もなかった症例に、定期的な実施はしていません。
WBMRI実施の工夫
WBMRIについては、「検査時間が長く予約が2枠必要で、他の検査への影響や病院経営のことを考えると実施が難しい」と耳にすることもあります。そのため当院では、脂肪抑制T2強調画像の冠状断だけに絞ることで、1枠30分で撮影できるよう工夫しています(詳細は「PNスクリーニングにおけるWBMRIの実際」の記載をご参照ください)。もちろん、通常の画像より情報量は少なくなりますが、目的は「PNを詳しく見ること」ではなく、「全身からPNと思われるものを見つけること」ですので、この方法で問題ありません。もしPNを疑う所見があれば、その部位の局所MRIを追加で撮影し、立体構造等を詳しく調べていけばよいのです。
また、WBMRIの依頼は1本化されている方がスムーズになると考え、現時点では1人の医師から放射線部へオーダーを出すようにしています。
- 1)Huson SM. et al.: Brain 111(Pt 6): 1355-1381, 1988
- 2)Plotkin SR. et al.: Plos One 7(4): e35711, 2012
- 3)Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
- 4)Carton C. et al.: EClinicalMedicine 56: 101818, 2023[COI:著者の中には、アストラゼネカ株式会社より資金提供を受けた者が含まれる]
- 5)Walker L. et al.: Br J Cancer 95(2): 233-238, 2006
PNの治療における院内連携
当院では、個々の症例の症候に応じて必要な診療科で治療を行いますが、対処に苦慮する症例については、NF1診療のハブとなっている形成外科と小児科、それに加えPNの発生部位や症候に関連する診療科で集まり、方針を話し合うようにしています。例えば、症候が認められているが手術が難しいと思われる症例、今後症候が出現する・手術が難しくなると予想される症例について、治療のベネフィットがリスクを上回るか、本当に手術はできないのか、手術が不可能であればコセルゴ®を投与すべきか等を確認します。専門診療科でないと判断できない内容もあるため、診療にあたっている医師全員で決めていく必要があると考えています。
PNの治療 コセルゴ®
コセルゴ®の投与について多診療科で話し合った症例は8例で、このうち痛みや外観上の問題、脚の過成長等の症候をもつ5例の患者さんで投与を開始しました。
コセルゴ®の処方と基本的なフォローは、小児科で行っています。コセルゴ®は他の抗悪性腫瘍薬と比べて、副作用マネジメントがしやすい印象ですが、日常生活に影響を及ぼす消化器症状や皮膚関連の有害事象が出現しやすいのも事実です。特に皮膚症状は、カフェ・オ・レ斑等の見た目でわかる症状と相まって、苦痛に感じる患者さんが多い有害事象です。コセルゴ®は基本的に長期に内服しますので、「有害事象と上手くつきあっていくこと」が内服継続のポイントだと感じています。
そのため当科では、有害事象がなるべく起こりにくいように対処する方針としています。具体的には、消化器症状が気になり始めた段階で制吐剤や整腸剤を処方しておく*、皮膚関連の有害事象が気になる方には処方開始時から皮膚科を併診していただく、等です。
また、処方開始前に有害事象について患者さんに時間をかけてお伝えすることも意識しています。患者さん向け冊子等を使用し、具体的に説明しておくことで、患者さんも有害事象に対する心構えができるのです。
*予防的投与は適応外、患者さんには症状が出た際に内服するよう指示。
最後に
診療のこれから
現在、関連地域において、当院への集約化が少しずつ進んできているように思います。ただ、患者さんの中には遠方に住んでいて、通院が負担となる方もいらっしゃいます。そのため、基本的な診療は近隣の病院でフォローしていただく、又は遠隔診療を活用し、特別な検査や処方開始のタイミングでは当院に来ていただく等、さらに患者さんが診療を受けやすい環境にしていければと考えています。
PNの治療のこれから
PNをもつ患者さんの中には、まだまだ苦しい状況におかれている方がいらっしゃいます。例えば、PNが大きく下垂した患者さんでは、減量手術の際に4Lを超える出血を認めました。こういう患者さんを目の当たりにすると、コセルゴ®がもっと早く発売され、使用できていれば、リスキーな手術をしなくて済んだのではないかと思わずにはいられません。幸いにも、今はコセルゴ®が使用できるようになったので、必要な患者さんには適切に投与していきたいと考えています。そして、PNの症候によって生活に支障が出る患者さん、命に関わるような状態になる患者さんが1人でも減ってほしいと願っています。
同時に、内服期間はどれくらいがベストなのか、内服を続ければどんなPNでも縮小するのか等、コセルゴ®にはまだ分かっていないことも多くあります。早期にデータが集まり、より適切な使用法が確立されていくことを期待しています。
コセルゴ®の効能又は効果
- 4. 効能又は効果
神経線維腫症1型における叢状神経線維腫 - 5. 効能又は効果に関連する注意
- 5.1 疼痛や外観上の変形等の臨床症状を有し、重大な合併症のリスクを伴うことなく切除できない叢状神経線維腫を
有する神経線維腫症1型患者に対し投与すること。[17.1.1、17.1.2参照]
- 5.1 疼痛や外観上の変形等の臨床症状を有し、重大な合併症のリスクを伴うことなく切除できない叢状神経線維腫を