監修者の所属は2024年12月時点の情報です

はじめに

叢状神経線維腫(以下、PN)は、神経線維腫症1型患者に高頻度で発症する腫瘍の1つです。臨床的な診断では301)WBMRI(Whole Body MRI)によるスクリーニングを行うと50~60%に認めると推測されていま2)3)PNは全身のあらゆる部位、表層に限らず深部にまで発生しADL/QOLを低下させるだけでなく、悪性末梢神経鞘腫瘍への悪性転化のリスクもありま4-6)
しかしながら、顕著な症状を呈さない、症状と腫瘍の因果関係の判断が難しい等、介入すべきか悩む症例を抱える先生方も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座 客員教授の太田有史先生に、PNの病態と症候に関してご見解をいただきました。

  • 1)Huson SM. et al.: Brain 111(Pt 6): 1355-1381, 1988
  • 2)Plotkin SR. et al.: Plos One 7(4): e35711, 2012
  • 3)Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
  • 4)Evans DG. et al.: J Med Genet 39(5): 311-314, 2002
  • 5)Gupta G. et al.: Neurosurg Focus 22(6): E12, 2007
  • 6)Landry JP. et al.: JAMA Network Open 4(3): e210945, 2021

取材年月:2024年12月

コセルゴ®治療継続のコツ

本稿のポイント

  • 叢状神経線維腫は臨床的な違いがあるので、“かたちの異なる神経線維腫を包括した呼称“だと念頭に置いたうえで、診療にあたるのが肝要です。
  • 症候を定義づけることにこだわり過ぎず、患者さんの訴えや客観的事実を基に、不利益が生じる可能性がないか探しに行く姿勢が大事です。
  • 手術を選択するか、薬物療法を選択するか、患者さんと協議し決定する必要はありますが、手術が困難と見込まれる症例や、部分切除は選択肢に入るものの手術痕を気にされるような患者さんでは、コセルゴ®が選択肢になると考えています。

神経の神経線維腫とびまん性の神経線維腫

神経線維腫にはさまざまな分類がありま7)そのうち臨床的に重要な「神経の神経線維腫」と「びまん性の神経線維腫」について簡単に解説します。神経の神経線維腫は、過去には「結節性の神経線維腫」とも呼ばれていました。皮下の神経に一致して紡錘状に形成される、神経周膜に覆われた“1つの大きな塊”と捉えることのできる腫瘍で、コロコロして、圧痛や自発痛を伴うことが多いで8)一方で、びまん性の神経線維腫は境界不明瞭で徐々に増大、弁状に下垂を起こす腫瘍で、整容上の問題や関節可動域の減少等を引き起こしま8)図1として、各神経線維腫の写真を掲載しました。左の写真では、頸部に神経の神経線維腫が、右の写真では、下肢にびまん性の神経線維腫が生じています。ご診療に際し、参考になさってください。

  • 7)Ortonne N. et al.: Neurology 91 (Suppl 1): S5-S13, 2018
  • 8)神経線維腫症 1 型診療ガイドライン改定委員会 ( 編 ). 日皮会誌 128(1): 17-34, 2018

叢状神経線維腫(Plexiform Neurofibroma)

本邦においては、これまで神経の神経線維腫とびまん性の神経線維腫を区別して診療していました。しかし、近年では、同一の細胞を起源として生じているのではないかと推察され、この2つの神経線維腫をまとめた叢状神経線維腫(Plexiform Neurofibroma、以下PN)という名称で呼ばれています(図2)。実体験としても、神経の神経線維腫の周りにうっすらとびまん性の神経線維腫様の組織が存在する腫瘍や、びまん性の神経線維腫の内部に神経の神経線維腫を認める腫瘍を見たことがありますので、個人的にも何かしらの関連があるのだろうと考えています。とはいえ、ご紹介した通り、臨床的な特徴には違いがみられるので、PNは“かたちの異なる神経線維腫を包括した呼称”であることを念頭に置いたうえで、診療にあたるのが肝要かと思います。

PNの早期発見

PNは、ANNUBP(Atypical Neurofibromatous Neoplasms of Uncertain Biological Potential)という中間型腫瘍を経て、悪性末梢神経鞘腫瘍(Malignant Peripheral Nerve Sheath Tumor、以下MPNST)に転化することが明らかになってきています。MPNSTは、悪性軟部腫瘍の中でも5年全生存率が40%未満とされる予後不良な腫瘍で9)10)そのため、PNをできるだけ早い段階で発見し、治療、もしくは経過観察を行う必要があります。PNの早期発見という観点では、問診や視診、触診等で十分診断できるものもありますが、小さなものや体の深部に発生したものを同様の手法で診断するのは、現実的には厳しいこともあります。通常の診療に加えて、非侵襲的に撮影ができるMRIを活用して早期にPNを発見するのが重要と考えています。

  • 9)叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン作成委員会(編):
    叢状神経線維腫-悪性末梢神経鞘腫瘍診療ガイドライン, 第1版. 医学図書出版株式会社, 東京: 16-17, 33, 2024
  • 10)Ducatman BS. et al.: Cancer 57(10): 2006-2021, 1986

症候性のPNとは

PNの診療を行う上で「症候性」という単語がキーワードになることがあります。そのため、PNの症候に関して理解を深めておくことは重要ですが、明確な定義があるわけではないため、現状では先生方によって考え方が異なっている印象があります。本パートでは、私の個人的な見解としての「症候性」についてお伝えしたいと思います。
あえて簡潔に言えば、「患者さんが訴える違和感や、検査所見等から確認された客観的事実はすべて症候」と捉えるべきではないでしょうか。例えば、症候というと、疼痛をイメージされる先生方も多いかもしれません。確かに疼痛は症候の中の1つですが、それは患者さんが困る一部の事象に過ぎません。疼痛に限らず、症候の定義を特定の事象に限定してしまうと、それ以外の事象が頭から抜けてしまい、よくよく調べてみれば患者さんに起きていた異常の見逃しや、その異常に端を発した将来的な不利益につながってしまう可能性があります。
そのため、あえて症候性を具体的に定義せず、PNを見つけた場合、患者さんの訴えを聞いたり、検査所見等の客観的な事実に目を向けたりといった症候性のスクリーニングを行い、患者さんに起きている「何か」がないか考えることが大切なのではないでしょうか(図3)。
以上が私の見解ですが、最初から何の参考もなく、その「何か」を探すことは難しいとも感じています。コセルゴ®の臨床試験で組み入れられた病的状態は1つの参考になると思いますので、ぜひご参照ください(図4)。

警告・禁忌を含む注意事項等
情報は電子添文を参照ください

新たな治療選択肢、コセルゴ®

PNの治療は長らく対症療法と手術療法が主でしたが、2022年に内服薬であるコセルゴ®が登場しました。手術は優先度の高い選択肢と考えていますが、手術を繰り返した結果、瘢痕拘縮を引き起こした症例や、術後の後遺症で麻痺や疼痛の増強を起こした症例も経験しています。そのため、手術ができない症例はもちろん、手術を繰り返すことが想定される症例や、術後に何らかの後遺症が残る可能性が高い症例には、コセルゴ®の使用を積極的に検討します。また、部分切除は選択肢に入るものの手術痕に強い抵抗感を持つ患者さんにもコセルゴ®を提案することがあります(図5)。どのような症例であっても、事前に治療方針に関して一度患者さんに相談し、理解を得るのが肝要です。

  • 5. 効能又は効果に関連する注意
    • 5.1 疼痛や外観上の変形等の臨床症状を有し、重大な合併症のリスクを伴うことなく切除できない叢状神経線維腫を有する神経線維腫症1型患者に対し投与すること。[17.1.1、17.1.2 参照]

コセルゴ®の投与症例

副作用マネジメント

私は現在、腫瘍の縮小と、それに伴う可動制限等の機能障害の解消に期待して、コセルゴ®を使用しています。有害事象に関しては、悪心・嘔吐、ざ瘡様皮膚炎、心窩部痛等が発現しました。悪心・嘔吐に関してはH2ブロッカーとオキセサゼインで対応したのですが、十分に軽快しなかったためコセルゴ®を減量して対応しました。一方、ざ瘡様皮膚炎に関してはステロイドの内服で、心窩部痛に関してはオキセサゼインを併用することで軽快しました。

各薬剤の詳細は、電子添文をご確認ください。
腹部にPNが確認された症例

コセルゴ®処方例のうち、1例について詳しくご紹介いたします。患者さんは15歳の女性で、腹部にPN(びまん性の神経線維腫)が生じ、症候として外観上の変形や疼痛がありました(図6)。手術による切除も視野に入れていたのですが、手術痕が残ることに強い抵抗感を示されたため、コセルゴ®を使用しました。治療開始後、有害事象として、服用後の心窩部痛が発現しましたが、前述のとおり、オキセサゼインの併用で軽快しています。経過として、腫瘍自体にも変化が見られました。現在も内服を継続しており、患者さん自身も前向きに治療に取り組んでいます。

最後に

PNの診療にあたっては、病態を理解することはもちろんですが、PNの症候を多面的に捉え、患者背景・画像所見等を含めたあらゆる情報を基に、患者さんが不利益を被る可能性がないか、医師が総合的、かつ積極的に診ていく必要があります。そのうえで、手術を選択するか、薬物療法を選択するか、患者さんと協議し決定しましょう。今後、PNの治療選択肢は増えていき、それに伴って患者さんからの治療に対する要望も増えていくかもしれません。医療者として正しい知識を持ち、適切な治療を行えるように尽力していくことが、これからのPN診療を担う我々に求められていると考えます。

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